97. 「こういう時に限って」
98. 「終わらせる」
99. 「順調だよ」
100. 「全部あんたのせいだ」
げほっ、と大きく咳をする。
それと同時に手にこぼれた真っ赤な液体に舌打ちをして、サカモトは口を拭った
。
「…だから言ってんだろ」
ふとかけられた声に顔をあげる事もできず、視線だけを相手に向けると心配そう
に眉をよせたイノハラがそこに立っていた。
「…うるせぇ」
小さくそう返すと背を預けていた壁に手をついてよろよろと立ち上がる。が、支
えきれずに力を失った体が地面へと吸い込まれていくのを目にとめて、イノハラ
は慌ててサカモトの体を抱き留めた。
久しぶりに触れたその体は痩せ細り、軽くなった体重もイノハラを不安にさせる
。
耳元でぜいぜいと喘ぐ声がやけに響き、イノハラはサカモトの服を握り締めると
、言った。
「サカモト君、あんたいい加減にしろ」
「…嫌だ」
「そのままじゃ死んじゃうよ」
「嫌だ」
「俺はあんたに生きてて欲しいんだ」
「…ぃやだ、」
「…俺のこと一人にする気?」
「…」
黙り込んだサカモトをぎゅう、と力強く抱き締め、彼の頭を首筋に押しつける。
するとごくりと唾を飲み込む音がして、ぴちゃりと首筋を舌が這った。
血管を追って舌が動き、耳元まで唇が近づくと、サカモトの息の荒さに、俺ひか
らびるかも、とイノハラは苦笑した。
味見をするように何度も何度も舌を滑らせ、不意にイノハラの首にサカモトの腕
がまわる。
来る、とイノハラが思った瞬間、チクっと痛みが走った。それに耐えるようにサ
カモトを抱き締める腕に力を込める。
ごくん、と喉が動く音を耳にとめると、安心したイノハラはふらふらとした足取
りで、噛み付いたままのサカモトを引きずりながらベッドへと腰かけた。
すると途端に押し倒され、イノハラにまたがったままのサカモトの紅い目にぎろ
りと睨まれてしまう。
口端からこぼれる赤と、暗やみに光る紅がとても綺麗だ、とぼんやりとした意識
の中でイノハラは思う。
貧血かな、とあまり働かない頭で考えつつサカモトへ手をのばすと、少し戸惑っ
た後に強く握り締められてイノハラはヘラリと微笑んだ。
「俺の血そんなに美味かった?」
「…バーカ」
冗談めいたイノハラの言葉に安心したのか、握っていた手を放り投げ、口を拭う
。ひでぇ、と呟く声がしたがそんな事も気にせずサカモトはイノハラの上から退
こうと足に力をいれる。が、それはイノハラによってさえぎられてしまう。
「…あんだよ」
「俺の血ならあげるから」
「…」
「死のうなんて思うなよ」
「…吸血鬼に血をやる馬鹿がどこに居んだ」
「人間を拾う吸血鬼が悪い。全部あんたのせいだ」
さらりと言い返すイノハラにサカモトは呆れたように大げさにため息をついた。
そしてベシっとイノハラの頭を叩き、早く寝ろと促す。
「どこにも行くなよ」
というイノハラの言葉と、強く握られてしまった手にサカモトは苦笑する。
そして安心しろ、と呟く。お前が許すなら、俺はお前の一生を一緒に生きるよ、
と、愛しそうに眠りイノハラの頭を撫でながら。
101. 「泣くなよ・・・」
102. 「大きくなったな」
103. 「涙もろいんだから」
104. 「人のこと言えるのか?」
105. 「懐かしい話だ」
106. 「もちろんですとも」
107. 「いい加減にしろ!」
108. 「頼りにしてるよ」