109. 「血が足りない」


110. 「もうやめないか」


111. 「約束してたから」


112. 「よく来れたな」


113. 「目が霞んで見えないよ」


114. 「俺が世話をする!」


115. 「はいはい、分かったから」


116. 「すぐ行くよー」


117. 「気持ちいいな」


118. 「空の色が綺麗だ・・・」


119. 「うん、そうだね」

別に永遠を生きたい訳じゃない。
それに愛着がある訳でもない。
ただ大切なものに裏切られたと言う痛みをあんたにもわからせたいだけだ。
…そう。ただ、それだけの事なんだ。



喉がひりひりと痛む。
もう何日もものを口にしていない。それは自分で望んだ事ではなかったが、焼け る様な喉の痛みに自嘲気味にゴウは笑んだ。
真っ白いベッドの上で、自分の吐いた血にそまったシーツを握り締めて小さく咳 をする。
この部屋の主人はもう一週間はゴウの前に姿を現していなかった。それはつまり ゴウが一週間、まともな食事をとっていない事を意味していた。
別段人間の様な食事をとらなくてもゴウの力は衰えなかったが、さすがに一週間 も血を摂らないと体が言うことをきかなくなる。
ここ三日ほどゴウは寝たきりだった。
部屋の主人はよくこうしてゴウを置いて何日も部屋を空ける。それを約束をした 訳ではないが、ゴウは何日も彼を待ち続ける。
…それにはきちんとした理由があるのだが。
ふと、聞き慣れた足音が耳に入る。人間には聞き取れないほどの小さなものだっ たが、それをゴウが聞き取るのは簡単なことだった。
ガチャリと音をたてて光が入り込む。ドアを開けた部屋の主人がカツカツと靴を 鳴らしてまっすぐにベッドへと近づいてくる。
それをうっすらと開けた目で見つめながら、ゴウは再び自嘲の笑みを浮かべた。
「…おっせぇ…」
小さく呟いた言葉にその人物は口角をあげて笑み、ゴウの顔の横に手をついてベ ッドに乗り上げる。
手の甲でゴウの頬を撫でると指を追うように唇が動く。かぷ、と唇が指に噛み付 いた瞬間。手のひらがゴウの頬を叩いた。
「…まだ良いっていっとらん」
「うん、そうだな」
べ、と舌を出してゴウは笑う。
オカダと呼ばれた人物はゴウの態度に腹をたてたのか、むっとした顔でゴウの髪 の毛をつかむ。
ゴウは痛みに顔をしかめるが、彼を満足させる方法を他に知らなかった。
彼が憎んでるのは自分で、けれど彼が自分を捨てきれないのも事実で。
「贄」であるオカダの血しか受け付けなくなったゴウを置いて居なくなるのは、 ひからびてしまう事を望んでいるからなのか。
それでもまたゴウのもとへと帰ってくるのは、やはり自分を捨てきれないからな のだろうとゴウは思う。
髪を掴む手はすぐにゆるまり、戸惑いながらゆっくりと動くその手は頬を通り再 び唇へと辿り着く。
人差し指をぺろりと舐め、何も反応が無いことを確かめるとゴウは戸惑う事なく 歯をたてた。
甘く口に広がる液体が、渇きを潤していく。
不意に唇が指から離れ、再びゴウの体がベッドへと沈む。
青白かった顔は色を取り戻し、目を閉じて安らかに眠っているゴウを見てオカダ は息をついた。
憎らしい、死んでほしいと思う。そしてそれと同時に自分と生きていて欲しい、 と。
自ら「贄」になり永遠を生きているのは、答えが導きだせないから。そして何よ り彼を離さないため。
ゴウの上から体を退かし、ベッドの端へ腰掛ける。
少しのびた前髪を退かしてやって頬を撫でた。
「大っ嫌い」
そして何よりも愛している。

別に永遠を生きたいわけじゃない。

永遠に近い時間を生きて、彼に俺の痛みをわからせたい。
…ただ、それだけなんだ。




120. 「この幸せがずっと続きますように」